大阪高等裁判所 平成11年(ラ)1049号 決定
主文
一 本件抗告を棄却する。
二 抗告費用は抗告人らの負担とする。
理由
第一抗告の趣旨
一 原決定を取り消す。
二 平成一一年度神戸市予算のうち、神戸空港建設関連予算三七八億円を支出してはならない。
三 (予備的)本件を神戸地方裁判所に差し戻す。
第二当事者双方の主張は、原決定記載のほか、抗告人らについては、即時抗告状、平成一一年一一月五日付、平成一二年二月一五日付各書面、相手方については、平成一一年一二月一五日付意見書記載のとおりである(ただし、原決定一二頁五行目の「債務者」を「抗告人」と改め、同一三頁五行目の「含むものである」の次に「(その後、右事件は、神戸地方裁判所で訴却下の判決がなされたが、大阪高等裁判所が右判決を取り消して差し戻し、現に神戸地方裁判所で審理中である。)」を加える。)。
第三当裁判所の判断
一 抗告人らが神戸市民であること、抗告人らが神戸市監査委員に対し、平成一一年七月一二日付で本件支出の差止を求める住民監査請求をしたが、同委員は同年八月二日付で右請求を却下したこと、抗告人らが、同年九月一日、神戸地方裁判所に本件支出の差止を求める住民訴訟を提起したことは当事者間に争いがない。
二 抗告の趣旨三項について
抗告人らは、原審において、平成一一年九月二七日付「訂正申告書」をもって、本件仮処分申立ての相手方(原審債務者)を、神戸市から神戸市長笹山幸俊に変更する旨申し立てたのに、原審裁判所は債務者を変更前の神戸市として原決定をしているから、原決定は不適法であると主張して、本件を神戸地方裁判所に差し戻すことを求める。
原審記録によれば、抗告人らが右の「訂正申告書」をもって債務者の変更を申し立てたことが認められるが、右の変更申立てによって、本件仮処分事件の債務者が、裁判所の決定もなしに当然に抗告人らの申し立てた者(神戸市長笹山幸俊)に変更されるものではない。
仮に、抗告人らの右主張を当審での債務者の変更の申立てであると解しても、民事仮処分事件においては、行政事件訴訟法一五条のような当事者の変更を許す規定はないから、右の変更を認めることはできない。
したがって、抗告人らの右申立ては理由がない。
三 そうすると、本件仮処分事件の債務者は、抗告人らが提出した本件仮処分命令申立書に債務者として記載されている神戸市である。
ところで、本件仮処分は、地方自治法二四二条の二第一項一号に基づく本件支出の差止請求を本案とするものであるから、債務者となる者は、本案事件における被告と同じように、地方公共団体である神戸市ではなく、執行機関である神戸市長笹山幸俊でなければならない。したがって、本件仮処分申立ては、債務者を誤った点において不適法であって、却下を免れない。
四 なお、地方自治法二四二条の二第一項一号に基づく差止を求める住民訴訟を本案として、右差止請求権を被保全権利とする民事保全法上の仮処分を求めることができるかについても問題があるが、当裁判所も、この仮処分は許されないと判断するので、この点からも、本件仮処分申立ては不適法である。その理由は、次のとおり付加するほか、原決定の「第三 当裁判所の判断」の二1記載のとおりであるから、これを引用する。
地方自治法二四二条の二第一項の規定による住民訴訟は、行政事件訴訟法五条所定の民衆訴訟の一つであり、地方自治法二四二条の二第六項により行政事件訴訟法四三条の規定が適用されるから、同条三項により、同条一項及び二項に規定する処分又は裁決の取消し又は無効の確認を求めるもの以外の民衆訴訟には当事者訴訟に関する規定が準用される。そして当事者訴訟に関する同法四一条によれば、当事者訴訟には同法二五条の執行停止の規定は準用されないので、これに代わるものとして、行政事件訴訟法になんらかの手当てがなされているかを検討するに、同法四四条は、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為以外については仮処分をすることを明文で排除していないし、同法七条によれば、同法に規定のない事項については民事訴訟法の例によると定められているから、住民訴訟を本案とする仮処分も許されるのではないかとも考えられる。そこで、次にこの点について判断することとする。
行政事件訴訟法七条は、単に抽象的に「民事訴訟法の例による」としているだけであって、民事保全法の仮処分の規定を個別に準用しているのではないから、行政事件訴訟の性質に反するものについては、民事訴訟法は準用されないものと解されるので、民事訴訟法が準用される範囲については事項毎に個別に判断せざるを得ないことになる。
そこで、本件について検討するに、民事訴訟で当事者能力を有するのは、原則として民事実体法上の権利能力を有する者とされているが、地方自治法二四二条の二第一項一号による差止請求にかかる住民訴訟の被告は、地方公共団体、その長個人または職員個人ではなく、地方公共団体の執行機関としての長又は職員である。しかし、地方公共団体の執行機関としての長又は職員は、本来は民事実体法上は権利能力者ではないが、同法二四二条の二第一項一号の規定により、特に当該住民訴訟に限定して当事者能力が認められたものであって、一般的に民事訴訟法上の当事者能力、あるいは民事実体法上の権利能力を有するものとされているわけではない。
そうすると、仮に前記差止請求訴訟を本案とする仮処分が許されるとすると、債務者は、三項記載のように、本案訴訟の被告である執行機関としての長又は職員でなければならないが、仮処分命令が出されても、このような権利能力のない債務者に対しては、現行法上、仮処分命令の強制執行の方法がない。とすると、本件のような差止を求める住民訴訟においては、民事保全法を準用することはその件質に反するものというべきである。
五 その他の被保全権利を理由とする主張について
抗告人らは、知る権利、請願権等を被保全権利として主張するが、仮にこれらの権利が認められるとしても、同権利を被保全権利として地方自治法二四二条の二第一項一号による本件支出の差止請求を本案とする仮処分を求めることができないことは四項記載のとおりであるが、抗告人らが同条項以外のいかなる法律的根拠に基づいて本件仮処分を申し立てているのか、つまり何故本件支出の差止を求めることができるのかが明らかでなく、右主張は採用できない。
六 以上の次第で、本件仮処分申立てを却下した原決定は相当であって、本件抗告は理由がない。
よって、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 松尾政行 裁判官 熊谷絢子 裁判官 坂倉充信)